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五番辛口という魔物

大学の近所にある中華料理店の名物に「五番辛口」というものがある。
五番というのは定食番号を示す。この場合、五番は麻婆春雨のことである。
そしてこの麻婆春雨定食の辛口を、五番辛口と我々は呼称している。


さてこの五番辛口だが、これがどうしようもなく辛い。
私自身は口にしたことはないのだが、先日、五番中辛なる下位互換に挑戦してみた。

結果から言うと、一人では食べきれなかった。
私自身、あまり辛いものに耐性があるわけではない――が。
それでも【中辛】なのであることに留意して読んでいただきたい。


さて、当初私は辛口を注文するつもりだったが、その時は腹も減っていたし、食べきれないと空腹になるのが分かっていたので、おそらくまだ食べられるものが出てくるだろうと思って中辛にした。
まあ余裕だろうと、店員に「五番、中辛」と軽い気持ちで注文を告げる。

同席の中で一番最後に、私の注文した五番の中辛がやってきた。

第一印象は、「赤い」である。
春雨の間に、ミートソースのように挟まっている赤黒い塊。固まった血を思い起こさせる生々しい色だ。
さて、コップに水も用意して準備万端。割り箸はパキッと音を立てて小気味良く割れ、キラキラと光る白米からはほかほかと湯気が出ている。
さて、お腹も鳴る程に空いている。これだけ空腹なら無理矢理にでも詰め込めるだろう。
そう思って、箸で春雨をすくう。ピリピリする香りが湧き上がり、さらに食欲をそそらせる。
我慢できずに、私はそっと春雨を舌に載せた――――だが。

「!?」

口を閉じようとしたその瞬間、私はにわかに激しくむせ返った。
直接春雨が喉に触れたわけではない。気化した辛味成分が、たった一度の呼吸で、喉の部分の粘膜を襲ったのである。

しかしまだここまでは予想できている。春雨を運ぶ途中に呼吸をしないように注意しながら、二口、三口と食べ進めていく。このころまではまだ、辛さを旨味と捉えることができていた。

二割を食べた頃だろう、熱々の春雨をなんとか冷ましながら食べていくうちに、それまで食べられていたはずのご飯が突然口へと運べなくなった。
あまりの辛さに敏感になった舌が、熱を受け付けなくなったのだ。
そしてもちろん味覚にもそれなりの影響が及んでいた。
辛いを通り越して苦いトウガラシエキスにより、気づくと辛味以外の味を全く感じなくなっていたのだ。

それを感じ始めたあたりから、やっと麻婆春雨との死闘が幕を開けていたことを私は実感したのである。


五番ではなく、一番(麻婆豆腐)辛口なら私も食したことがあるが、そちらの記憶も交えると、まずこの店の辛口には山椒が大量に用いられていることが分かっている。
唐辛子だけでも十分辛い。しかし辛口には、かなりの山椒が混入されている。
山椒を食べるとなにがいけないのかというと、水が飲めなくなってしまうのだ。

この店の水はなんの変哲もない水だが、山椒を食べることによって舌の何かしらの神経がおかしくなるのか、水を酸っぱく感じるようになってしまう。

そのため、水を飲んでも飲んでも舌を覆うピリピリとした刺激が一切止まない。食べることを止めても――なんと無慈悲な食物であろうか――辛口の魔の手が我々を休ませることは一切ないのである。

やっと半分に到達したあたりで、食がまったく進まなくなってしまった。
「どうして俺はこんなものを食べているのだろう?」
あまりの絶望にそう思えてくる始末。店に来た時の意気揚々さはどこへやらである。

皿の上に凶悪に邪悪に渦巻く春雨はもはや、私にとっては”たべもの”ではなかった。
どこぞのエロ漫画に出てくる触手もかくやの敵、”試練”だった。

しかし私は、快楽に溺れる女騎士のように、簡単に堕ちるわけにはいかない。
私には幸運にも仲間がいた。心強い、五番辛口の心得がある歴戦の勇者たちである。
彼らにも手伝ってもらうことになり、私はつかの間の安堵を得た。


そのころ、ご飯がなくなった。この店はお代わり一回無料なので、店長に頼んで盛ってもらう。その時の店長の目には、私に対する幾らかの諦観が含まれているように見えた。

「こんなのも食べられないのか」(あくまで想像)

俄然、食べなければいけなく思えてくる。注文したのは私だ。自分のしたことの責任ぐらい取らなくては男ではない。
盛られたばかりの白米を手にして、よし気持ちを切り替えるぞ、完食するぞと意気込んで席に戻る。
春雨をご飯に載せ、口に運んだその瞬間に――再び自分がどれだけ甘い見通しをしていたのかに気づいた。

ご飯が食べられない。

これまでは、食が進んで春雨によって舌が麻痺していくのに合わせてご飯の温度は下がっていった。そのおかげで、舌の耐久度が少しずつ削られ熱に対して鋭敏になってしまっていても、なんとか耐えられていたのである。
だが、ご飯の熱さが突然リセットされるとどうなるのか。
もちろん、ご飯が食べられなくなるのである。
味の濃いものを食べる時、我々はご飯を一緒に食べる。
辛いものを食べるときにもその定式に違わずご飯は辛味の緩衝役となるわけだが、こうなるともうご飯は役には立たない。冷めるのを待つしかないのである。

噂では、友人が以前五番辛口を注文した時は完食に三時間を要したそうである。

私はそれから二〇分をかけて、中辛を完食した。


ここまで苦しい思いをしながらも、我々は五番辛口に食指を伸ばす。なぜだろうか。

確かにこの五番辛口が、私の通っている大学内での通過儀礼的立ち位置になっていることは否めない。五番辛口を完食すれば、店長が完食写真をTwitter上にアップしてくれるし、サークルなどの宣伝にはもってこいである。

しかしそれでも、普通は食べる必要はない。完食できなかったときの写真もよくアップされる。その時には料金にペナルティも課される。

しかし我々は辛口の誘惑に抗えない。完食できないと分かっていても、これまでになく苦しい夕餉に赴くことになろうとも、その翌朝に、背水(W.C.)の陣を敷かれる肛門の戦いが待ち受けているのが分かっていても……。
答えは難しくないだろう。偉い登山家はこう言った。

「山があるから登るのだ」

我々は、そこに五番辛口があるかぎり、試練が立ちはだかるかぎり、注文せずにはいられない。ただ食べているだけの毎日にみんな飽き飽きしている。無難に美味しく、安全に進む夕食に。
五番辛口は、そんな日常にささやかなスパイスを加える、特別なアイテムなのではないだろうか。



私はもう二度と食べたくないのだが。



これだけは言っておきたいのだが、この店の通常のメニューは普通に美味しい。定食580円(おかわり一回アリ)と非常にリーズナブルなお値段で本格中華料理が楽しめる貴重な店だ。

五番辛口はある意味ただのアトラクションであり、通常の五番は毎日食べたくなるほどに美味しい。ちょっと辛いものが食べたければ小辛という選択肢もある。ちょっと辛いものが好きな人間なら十分に楽しめる辛さだ。ぜひともこの店を見つけたら、一度入ってみることをおすすめする。



余談だが、五番辛口以外にも【水煮牛肉】というアトラクションメニューがある。
こちらは通常メニューでも十分に辛く、辛口にしようものなら大学全体でも完食できるものは数名しかいない。

注文の際はお気をつけを。


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